マニュアルは悪くない
その「ちゃんと書いてあればな…」の正体
「これ、前にもやりましたよね?」
現場でそんな一言が出たことはありませんか。
探している資料が見つからない。担当者が休みでやり方がわからない。同じ説明を何度もしている気がする。そんなとき、心の中でこうつぶやいたことはないでしょうか。
「ちゃんと書いてあればな…」
「毎回やるなら、どこかにまとめておけばいいのに」
ところが、いざ「マニュアルを作りましょう」と言われると、なぜか空気が重くなる。「型にはめられる感じがする」「自由にできなくなりそう」そんな声も聞こえてきます。
不思議ですよね。本当は必要だと思っているのに、言葉にすると急に悪者になる。今日はそんな「マニュアル」という言葉のイメージについて、少し一緒に考えてみたいと思います。
なぜ「マニュアル」は嫌われるのか
私がいろいろな会社さんとお話しする中で感じるのは、「マニュアル」という言葉そのものが、少し損をしているのではないかということです。
「マニュアル通りにやれ」
「マニュアルに書いてあるだろ」
こんな言い方をされた経験があると、どうしても良い印象は持ちにくいですよね。まるで“考えるな”と言われているように感じてしまう。
でも本来、マニュアルは人の考える力を奪うものではありません。むしろ逆で、「迷わなくていい部分」を減らしてくれる存在です。
たとえば、毎回やる経費精算の手順。毎月の請求書の出し方。入社した人への説明。
これらをゼロから考え直す必要がなくなれば、その分、もっと大事なことに頭を使えます。
それなのに嫌われてしまうのは、過去のちょっとした“トラウマ”があるからかもしれません。
「作ったのに見られない」経験
「昔、上から言われて作ったんですけどね…」
こうおっしゃる方は少なくありません。時間をかけて分厚い資料を作った。でも誰も見ない。更新されずに放置される。気づけば古い情報のまま。
頑張った人ほど、がっかりしますよね。
「あれだけ時間をかけたのに、意味なかったな」と。
そして読む側も読む側で、あまり良い思い出がない。
「マニュアルに書いてあるから読んでおいて」と言われて、開いてみると専門用語だらけ。言い回しが難しくて頭に入らない。やっと読み終えたと思ったら、情報が古くて結局使えない。
そんな経験が積み重なれば、「マニュアル=面倒で役に立たないもの」という印象になってしまうのも無理はありません。
でもそれは、マニュアルそのものが悪いのではなく、“作り方”や“置き場所”がうまくいっていなかっただけなのかもしれません。
本当は、みんな「書いておいてほしい」と思っている
現場でよくあるのがこんな場面です。
ベテランの方が休みの日。
「これ、どうやるんでしたっけ?」
「うーん、たしか…前にこうやったような…」
結局、誰かに電話する。あるいは過去のメールを探す。
その時間、もったいないですよね。
本音を言えば、みんな「どこかに分かりやすく書いてあれば助かる」と思っているはずです。自分が教える側のときも、「毎回同じ説明をしているな」と感じたことがあるのではないでしょうか。
それでもマニュアルに手をつけないのは、「作るのが大変そう」という思い込みがあるからかもしれません。
完璧なものを最初から作ろうとする。きれいにまとめなければいけないと思い込む。だから腰が重くなる。
でも実際は、箇条書きでも、短い文章でも、「まずは書いてみる」だけで十分なことも多いのです。
イメージが変わるマニュアルとは
もし、こんなマニュアルがあったらどうでしょう。
・短くて読みやすい
・専門用語が少ない
・必要なときにすぐ見つかる
・情報が古くなっていない
これなら、「ちょっと見てみようかな」と思えませんか?
マニュアルは、立派な冊子でなくてもいいのです。
むしろ、現場で使われるものは、少しラフなくらいがちょうどいい。更新しやすくて、書き直しやすい。みんなが気づいたことを足していける。
そうなれば、マニュアルは「型通りに縛るもの」ではなく、「安心して動ける土台」になります。
たとえば料理で、基本のレシピがあるからこそアレンジができます。
基本が何もなければ、毎回ゼロから悩むことになりますよね。
仕事も同じです。
基本のやり方が共有されていれば、その上で工夫が生まれます。
まずは“小さく”始めてみる
「マニュアルを整えましょう」と言うと、どうしても大がかりな印象になります。
ですが、いきなり全部を整えなくても大丈夫です。
まずは、「毎月必ずやっていること」を1つだけ書いてみる。
あるいは、「新人さんが必ず質問すること」をまとめてみる。
たったそれだけでも、「あ、これあると助かるね」という空気が生まれます。
一度役に立つ体験をすると、マニュアルに対する見方は少し変わります。
私は仕事をスムーズにしたいと思ったとき、先にマニュアルから整えたいと感じることがあります。遠回りのようでいて、実は近道になることが多いからです。
もちろん、完璧ではありません。
書いても抜け漏れは出ますし、「あれ、これ違うね」と言われることもあります。けれど、そのやりとり自体が、仕事の流れを見直すきっかけになるのです。
マニュアルのイメージを、少しだけ変えてみる
「マニュアルは悪くない。」
そう思えるようになるまでには、少し時間がかかるかもしれません。過去の経験が邪魔をすることもあるでしょう。
でも、本当はみんな、「ちゃんと書いてあれば助かる」と思っています。
迷わず動ける安心感は、思っている以上に大きなものです。
もし今、マニュアルという言葉に少し抵抗があるなら、名前を変えてみてもいいかもしれません。「メモ」「共有ノート」「やり方メモ」でもいいのです。
大事なのは、完璧な資料を作ることではなく、仕事を少しラクにすること。
そのための道具として、マニュアルをもう一度見直してみる。
そんな小さな一歩から、日々の仕事は少しずつ、軽やかになるのではないでしょうか。
まずは一つ、よく聞かれる質問を書き出してみる。
そこから始めてみるのも、悪くないと思います。
